So What?

思考の筋トレ...のための読書メモ。

#10:小島寛之(2011)『数学的思考の技術』 KKベストセラーズ(ベスト新書)

本書の一行まとめ:数学に基づいた経済学で世の中の諸現象を見てみた

まぁ、数学に基づかない経済学があり得るのか?というツッコミを受けそうだが、本書が一応「数学的思考の...」と銘打っているので、そう書いておいた。いくつかのアマゾンのレビューにもある様に、本書は数学の本というよりも、「経済学的な物の見方に基づくエッセイ」だ。

前回アップした、critique.hatenablog.com
上記エントリーが、数学的思考がもたらす世界観を数学の言葉で(数式などを用いて)説明したのに比べ、本書は数式は殆ど出てこない。こちらは経済学の言葉を用いながら、それを説明しようとしている。

3部構成の本書の理路は以下の通り
第1部:不安定な毎日を生き抜くための数学的思考
→数学は経済現象を理解するための最強の武器だ*1
ヒルベルトの無限ホテル/カントールの無限集合/協力ゲーム/ネットワーク外部性/サーチ理論/大数の法則/独占と競争といった数学・経済学の概念を使って様々な現象を分析していく

第2部:幸せな社会とはどういうものか
→現状の経済学は、「多機能なもの」、を分析するのが苦手*2
現状の経済学の限界を認めると共に、数学の苦手な所を認める内容。ただ、著者の師匠の宇沢弘文の社会的共通資本論の話がやや間延びしている感があった。「ある種の合理性では上手く説明できない問題がある」という事を言うために、第2部をまるまる使う必要があるのかはちょっと微妙。

▽また、宇沢弘文の業績については別の立場から下記のようなものもある
経済学者・故宇沢弘文、なぜ偉大?業績を5分で学ぶ 経済成長至上主義と市場経済の弊害 | ビジネスジャーナル

第3部:「物語」について、数学的思考をしよう
→「数学という明かり」が届かない闇が確かに存在している*3
なので、物語の力でそれを補うぜ。という話なのだが、本書の内容としては、どういう風に補いますという話ではなくて、「村上春樹の小説と数学的思考」という様な内容でこれまでの理路としてはやや腰砕けになっているが、エッセイなのでまぁいいと思う。最終章は「暗闇の幾何学」という文學界に掲載した著者の村上春樹論で締めくくられている。

「暗闇の幾何学」は別のタイトルを付けるとしたら「数学的、あまりに数学的。あるいはトポロジーについて」という感じか。

位相空間というのは、図形たちの間に新しい別の「距離感」を定義して、空間を日常とは異なる別世界に仕立てたもの。「トポロジー」と呼ばれている。*4

以下、彼の村上春樹論を読みとくと
春樹の小説にはソフトウェアとして数学が内蔵されている。その数学性とは
1.文章にときどき数学固有の概念を想起させる言い回しや表現があらわれる
→論理文の厳密性を利用している→普遍性の獲得*5
2.小説全体の構造が数学の定理の連なりと似た面持ちを備え持っている
幾何学的=図形のイメージ=「トポロジー

まさに村上は、ものごとの関係性を図形によって可能な限り明瞭に掌握しようとし、そしてその素性を論理によって再検証する、そういう性癖を持っている作家だということになるだろう。つまり、村上は心の暗闇に対して幾何学をもちいている、そう評価できるだろう。*6

まぁ第三部が一番面白かった。でも、1・2部との断絶感は否めないね。


読了日:2015/4/29
レート:★★★☆☆

数学的思考の技術 (ベスト新書)

数学的思考の技術 (ベスト新書)

*1:p.194

*2:p.160

*3:p.194

*4:p.225

*5:ウィトゲンシュタイン記号論理こそ人間の認識にとって最も普遍的なもの、いわば人間の生そのもの」

*6:p.245